急速に進展するIT(情報技術)は、我々のライフスタイルを変えつつある。ゲーム形式の教育用コンピューターソフトなどを開発・販売する浦和市のベンチャー企業「メディア・ファイブ」は、インターネットを活用した通信教育、自習教室事業を提案、県創造的投資育成財団が募集した今年度の「彩の国サクセスプレゼンテーション事業」で優秀賞に輝いた。同社の北畠謙太郎社長(40)に、IT社会における教育のあり方や、起業家の心構えを聞いた。 |
−インターネットを活用した通信教育、自習教室事業の狙いを |
「忙しい現代人が、いつでも、どこでもインターネットを使って、人との触れ合いを感じられる教育を展開したいと考えました。新年度から始める予定です」
「例えば、サラリーマンが昼休みに喫茶店で資格試験の勉強をするとします。疑問が生じたら、携帯電話でインターネットに接続し、講師に電子メールを送る。複数の講師をネットワーク化しますので、24時間以内に必ず返事が来る。定型的質問には、自動応答するシステムも用意します。生徒と講師が、”メール友達”のようにお互いをイメージしながら勉強を進められます」 |
−なぜ、教育や資格試験のソフト事業に乗り出したのですか |
「もともとはコンサルティング会社で企業のニュービジネスや学校経営などにかかわっていて、必要なソフトを開発するためにこの会社を作りました。これからの社会は、自分に投資し、能力を伸ばして豊かな生活を築いていく社会です。衣服や食べ物などの消費財へのニーズは飽和していますが、個人が持つ『自分を高めよう』という自己投資欲に限度はないと思います」 |
−それに貢献しようと |
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「はい。勉強にはいくつかの段階があって、単調な部分を乗り越えないと次に進めません。ゲームソフトメーカーにいたころ、テレビゲームに熱中する子どもたちを見て、このエネルギーを勉強に向けられないか、とも思っていました。1999年度の教育ソフト市場は約115億円で、情報産業においても、教育、資格試験分野は重要なキーワードです」 |
−パソコンを使った教育で、教諭は必要なくなるのですか |
「むしろ逆です。東京都内のある私立工業高校では、中学の数学用ソフトを改良して補習に導入しました。生徒用の100台パソコンから、学習状況が逐次、先生のコンピューターに集まる仕組みで、先生は的確な個別指導ができます。我々の役割は、先生と生徒のコミュニケーションをより増やすためのソフト作り。そういう意味では、先生の負担は増し、より一層の熱意や、親身のアドバイスが必要になります」 |
−最近のITブームをどう考えていますか |
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「物事のスピードアップや、ホテルの予約といった利便性向上が話題になっていますが、これは、既存の手続きの中間過程を簡略化するに過ぎません。ITによる新たな需要を喚起することが必要だと思います。また、コミュニケーション手段の発達は、消費者が商品やサービスをこれまで以上に比較することを意味し、企業には、誠実さや倫理観がより求められます」 |
−県内のベンチャー予備軍にメッセージを |
「埼玉は、人材、物流ともにそれほど変わらないのに、事務所コストはそんなに高くない。情報は、インターネットで収集すればいい。地に足を着けて仕事ができる点で、ビジネス環境はいいと思いますね。僕は、運と周囲の支えでここまで来ました。もうけようと考えるより、世の中の役に立つことを生きがいにするのが、経営者の務めではないでしょうか」 |
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メディア・ファイブ
1993年11月、教育用ソフトの開発などを目的に設立。資本金4500万円、社員12名。現在、教育用コンピューターソフト25種、資格試験用ソフト17種など計45種類のソフトを販売。教育用ソフトでは業界8位で、全国100以上の学校に納入されている。2001年3月期は、売上高約2億2400万円の見込み。東京証券取引所のベンチャー企業向け市場「マザーズ」に来年3月以降、株式を上場する方針。 |
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記者から
大学時代、著作権法について学び、「工場のない企業が将来、大きく成長する」と感じたという北畠社長。今まさに、自分でそれを実証しようとしている。
インターネットを活用した教育の根底にあるのは、人と人とのコミュニケーション。文教都市・浦和から提案する新しい教育システムに、注目が集まっている。若い社員に囲まれ、経営方針を熱く語る北畠社長に、ベンチャー企業の勢いを感じた。(石原 穀人) |