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第1章
三津枝博士の計画

2021年 世界に衝撃が走る。日本は米中ロシアに分割統治されることになった。津軽海峡、関門海峡を境にロシア、米国、中国となる。
国内ではなんの抵抗もなく、生活はなにも変わらず、検問所すらなく、ただ津軽海峡と関門海峡の行き来が格段と少なくなっていっただけである。
変わったものは九州と北海道の小中学生の教科書の内容と、マスコミの論調だ。
すでに地方経済は疲弊しきり、地方都市の商店街はシャッター通りの閑散とした光景が当たり前のように広がる。

 
 
それから9年
今は2030年2月21日。ここは八幡平の無人の山小屋。
もはや抵抗する意思も、力も日本国民にはない。三津枝博士とその取り巻きのレジスタンスを除いては。
彼らは豪雪に囲まれた、人を寄せ付けない無人の山小屋に、冬の間だけ集まった。レジスタンスといっても、テロや暴力革命を画策しているのではない。張り巡らされた監視衛星や街々の監視カメラ、発達しつくしたネットワーク網により、そういうことを行うことはもはや100%不可能なのだ。
 
彼らが行おうとしているのは、すでに20世紀にひそかに開発されていたテレポーテーションの技術を改良して、人を時空移動させる方法である。しかしまだ、生身の人間で行うには技術が未熟である。しかしもう時間はない。そこでアンドロイドを送り込むことにした。2010年の世界に・・・・。新しいリーダーたちをつくるために。
 
日本の没落は1991年のバブル崩壊から始まる。2001年の「9.11」にて株価は大暴落し、2008年9月21日の「リーマンショック」にて大恐慌を引き起こし、2012年12月22日太陽系がフォトン・ベルトに突入するや、天変地異が続き、ドルは暴落し、経済も奈落の底へと落ちて行った。
 
日本を代表する企業はすでに国内にはなく、優秀な学生は当たり前のように海外へ留学する。すこしでも優秀な研究者やビジネスマンもご多分に漏れず海外に流出する。
巷は失業者であふれ、すでに人々はなすすべもなく呆然と立ちすくみ、それに対し政権与党である民政党は比較的的確な手をうったにも関わらず、経済を立て直すことができなかった。
 
それはなぜか。国民の「やる気」が欠けていたのだった。民政党は「国民の生活を守る」というマニュフェストを標榜し、国民の支持を得て当選した。しかし国民自身の、自信と活力が、この20年の衰退と貧困の増加により失われていたのだ。国民自身に活力を取り戻さなければ、パンを自由に与えられ、無料でみられるコロシアムのショーにうつつを抜かした衰亡期のローマ帝国の民のように、最低限の保証のなかで、家に閉じこもり、テレビを見て過ごす貧民層がいたずらに増加するだけだった。
 
前政権であった自由党を支持していた大企業群は、いたずらに増加するだけの税負担に嫌気をさし、その多くが海外に本社を移してしまった。当然それに関わる優秀な人材や学生も移動してしまった。
 
日本国内の技術力が落ちれば、米国もより性能の低い兵器を提供する。中国は21世紀に入り、世界の工場となり、GNPはあがり、流出していた頭脳はこのバブルをビジネスチャンスとばかり、みな舞い戻り、さらに優秀な頭脳が流入し、瞬く間に、世界でトップクラスの技術を開発する能力を持つようになった。
 
大切なのは2010年だった。政権が交代し、あらゆる戦後のしがらみから断ち切れるはずの時、国民自身が希望をもって生活することだった。そうはいっても、従来型のビジネスでは、アジア諸国の生産に、価格競争で負けてしまう。少子化にも歯止めはかからない。日本で、日本人にできることは、頭を使うことと、人と人が協調しながら新しい価値を生むことくらいしかない。そんな経済社会のお手本なんてあるのか?
 
ある。江戸時代の農村はそれに近い共同体を形成していた。リーダーである庄屋を村民の投票で選び、5人組という幕府の引いた監視制度は、農民同士が知恵を出し合い、農業の生産性を高め、寺子屋という学校は至る所で増加し、金がなければ、だいこん一本で学問を学べ、下層農民でも現在の価値で300万円の年収があったという。
 
現代でももちろんそういう農業へ回帰する方法もあるだろう。しかしたとえ農業でなくてもなにかのスペシャリストになり、市場のニーズをとらえて、仲間をつのり、チームでビジネスを行えば、収入は生まれる。それを追い求めていけば、収入はあがる。これだけの経済規模である。先進国最低の個人の生産性を少し上げさえすれば、すぐに日本は活性化する。そして自信がつけば、世界でトップクラスの労働生産性を維持させることができる。
キーワードは江戸時代、寺子屋、5人組 現代に翻訳すればスペシャリストとグループウエアだ。
 
こういう仕組みを2010年の人々に広げなければならなかったのだ。いまからでは遅い。だが時空を移動する技術はある。2010年に戻って歴史を変えることができれば、日本は救われる。しかし時空に入り込み、未来の人間がなにか事を起こして、歴史を変えることは禁止されている。禁止どころか、未来にとても危険な磁場を発生させる可能性がある。
 
方法はある。未来から送られるアンドロイドになにもさせない、ただ選ばれた者の傍にいるだけだ。そしてその者がアンドロイドに学習させる。未来から送られてきた物体に作用させることだけでは、磁場の変化を生まない。
この場所もすでに安全といえない。いずれかの国の指示で動いた防衛隊はもうすぐこの山を取り囲むであろう。
その前に人間のテレポートを成功させ、地球の軌道上にある、もう廃棄された宇宙ステーションに自分たちを移動させなければならない。
   

この山小屋にたてこもってアンドロイドとテレポートの開発を進めているのは三津枝博士以下7人、ユウト(悠斗)、ヨーコ、内山助手、ハルナ(陽菜)、タクミ(拓海)、エリ。いずれも若きレジスタンスの闘士たちである。

   
歴史上、あらゆる国が世界帝国でなければ、なにがしかの制約や支配を受けるのは必然である。しかし戦後米国の強い影響下にあった日本では21世紀に突入したころから、内部からの崩壊もはじまった。その特徴は、特に東京の秋葉原にあらわれていた。1970年、半導体やコンデンサが1980年代はIT企業の起業のためのメッカだった。しかし2000年になると、そこは少しずつ変わっていった。受験やビジネスでの競争に疲れ、戦うこと厭い、メルヘンの世界に逃げ込む男性が逃げ込む空間へと変貌していったのだ。
 
秋葉原を中心に、その流れは、全国に、そして海外にまで広がった。
その流れとともに、急速に失業者は増加し、世の中は絶望と無気力が蔓延していった。
アニメやゲームの中で、巨大な鉄の機械を身にまとい、ひ弱な肉体の若き主人公が強大な敵と戦い、打ち破る。そんな物語から、現実離れした、自分だけを見つめていてくれるキャラクターと心を通わせるラブゲームに夢中になる若者。
 
三津枝博士たちは2010年に時を絞り、キャラクターのアンドロイドを送り込み、選ばれた者たちに知力を吹き込み、ノウハウを教え、社会で活躍させ、その輪を広げ、少しずつ知価社会へと変えていく。
 
2030年の今日を、世界をリードする技術とビジネスと、世界中から愛される、成熟した、平和で、大人の観光文化国家にするために。
 
「君は未来のリーダーに選ばれたのだ。」
 
 
株式会社メディアファイブ
 
メディアファイブ