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第5章
1600年 石田三成
時は1600年 三成の寝室

ナナミ「こんにちは。三成さん。」
三 成「なんじゃそなたは!」
ナナミ「私はナナミ。あなた家康と戦うでしょう。おやめなさい。あなた負けるわ。」
三 成「なんということを。そなたは家康の間者か?」と刀に手を伸ばす。
ナナミ「そもそも早急すぎるわ。家康はもう何年も前からこの状況を想定して準備をしてきたのよ。あなただって秀吉が死んだときには、家康がこうなる、と想定していたでしょう。」
三 成「太閤殿下に向かって呼び捨てとは無礼千万。切って捨てる!」と刀を抜く。
ナナミ「まあ待ってよ。私はナナミ。未来からきたのよ。話だけでも聞きなさい。」
三 成「それもそうじゃ。わしの夢枕に立つのは菩薩の化身かもしれん。」
ナナミ「家康と戦うのはお止めなさい。あなた負けるわ。」
三 成「この不安な心境になんということを言うんじゃ。」
ナナミ「あなた、ソンシを知っているでしょう。」
三 成「知っているもなにも子供のころからそらんじておるわ。」
ナナミ「あなたみたいのを“兵法読みの兵法知らず”というのよ。」
三 成「なまいきな・・・。なぜじゃ。」

 

ナナミ「はーい!ナナミのレクチャーはじめマース!まず第一章始計編。あなた道天地将法を知っているでしょう。」
三 成「無論じゃ」
ナナミ「それでは始計編にそってあなたと家康を比べてみましょう。『どちらの君主が道を有しているか。どちらの司令官が有能か。』」
三 成「むむむ・・・・。君主の経験では家康にはかなわんわい。なにせ家康は生まれたときから一応君主だったからな。まあ苦労したけど。」
ナナミ「司令官は?」
三 成「わしには島左近がおる。しかし家康には本田忠勝、井伊直政、榊原康正をはじめ左近クラスはわんさかおるわな・・。しかしなあ・・・。」
ナナミ「それでは次に“天”にいきまーす!あなたと、家康、ぶっちゃけ、どっちが運いいの?」
三 成「まあ小坊主から秀吉様に見いだされてここまできたのだから、わしも運はいい方だが、修羅場をかいくぐってきたのは、家康だろうな、とくに家康は占星術の大家だそうで、わしは占いは苦手じゃ。」
ナナミ「それでは次に“地”にいきまーす。あなたどこで戦うの?」
三 成「美濃の大垣じゃ」
ナナミ「ばかねー美濃の大垣といえば平地じゃない」
三 成「なにがばかだ。当然我が軍が多いのだから、平地での戦法が定石じゃ。それにこの戦は太閤殿下のご威光がいまだ天下にあり、家康はただの筆頭老中であり、豊臣家の家臣の反乱にするためにも正々堂々と勝負しなければならない。」
ナナミ「次に“将”にいきまーす!あなたと家康、どちらが戦上手なの?」
三 成「いやなことを聞く小娘じゃのう。戦では家康にはかなわん。いつかわが太閤殿下と家康めが戦自慢をしたことがあるが、家康は生涯負けたのは、武田信玄との三方原の戦いだけじゃ。ああ桶狭間を入れればふたつかな。そのとき長久手の戦いの話になってな、わが殿は大変不機嫌になった。なんせあのとき家康軍二万、我が秀吉軍は八万じゃったからな。それで完敗よ。」
ナナミ「最後に“法”にいきまーす!どちらが正しい?」
三 成「それこそが、わしの勝ちよ。わしは豊臣家の御ために戦っておる。家康は天下を我がものにしようと仕掛けてきておる。」
ナナミ「それって、みんなそう思ってる?みんながあなたを正しいと思わなければ、法に則るとは言わないわよ」
三 成「確かに、太閤殿下恩顧の大名でも、わしが憎くて家康についたものも数多くおる。とくに朝鮮の役の時、わしはずいぶん憎まれ役をおこなったよ。淀殿でさえ、大野のやつにたぶらかされて中立を決め込んでおる・・・(ため息)。」
ナナミ「豊臣家さえ二分しているじゃない。肝心の秀頼が見方にならなければ、あなたの義は成り立たないわ。すくなくとも回りからはそう見えるわ。未来でもそう。商売を世直しと勘違いで、思い込みだけで商品をつくって販売する社長の会社は大きくはならないわ。それを買うお客さんが支持しなければ商売は成り立たないのよ。それが現実。いくらあなたが今、豊臣のため、といっても世間がそれを認めないのなら、あなたに人はついてこないわ。人がついてこなければ、このいくさには勝てないわ。秀吉が完敗した長久手の戦いがそうなの。秀吉軍は8万の兵といっても、まだ心から秀吉の旗下に入ることをためらっていた寄せ集め軍だったのよ。その寄せ集めのもろさを家康がついたの。だから秀吉は完敗したの。」
ナナミ「ハー(ナナミため息)ところであなたが反家康軍の大将なの?」
三 成「わしでは役不足だ。毛利輝元殿に頼んだ。」
ナナミ「毛利さん乗り気なの?」
三 成「そうでもない。なにせ天下一の戦上手の家康相手に戦いたいやつなどおらんよ。」
ナナミ「ぜんぜん勝つ形になってないじゃないの。昔の善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ。知らないの?」

 
ナナミ「フーリンカザンを知っているでしょう。」
三 成「当たり前じゃ。兵を風のように早く、時には林のように静かに、攻めるときは火のごとく激しく攻め、動かないときは山のようにじっとしている、ということじゃ」
ナナミ「違うよ〜」
三 成「ちがう?」
ナナミ「大事なのはその前後。風林火山は組織を臨機応変に自由自在に動かす、という目的よ。そうするためにどうしたらよいか、が大切なの。
まず前の文。
「兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり」
つまり、敵に意表をつくように立ち上がり、利益を判断基準に周囲に働きかけ、組織を臨機応変に分散統合するのよ。
そして後ろの文。
「郷を掠(かす)めて衆に分かち、地を廓して利を分かち、権に懸けて動く」
迂直の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。
敵から奪った土地は公平にみんなに分け与え、土地を広げるときは利益を公平に分配し、そういった打算の裏付けを持って周囲に働きかける。
あなたが風林火山のごとく兵を動かせるのは、自分の部下だけよ。毛利も宇喜多も大谷も小早川も独立しているじゃない。臨機応変には動かないわよ。それどころか小早川が裏切ったらオ・ワ・リ。」
三 成「うーんむかつく小娘じゃな!小早川のガキが西軍を裏切る度胸はあるかね。」
ナナミ「当然よ。淀と秀頼が、家臣同士の争い、として日和見中立を決め込んでいるのだから。度胸がなければ恐ろしいほうにつくわ。あなたたち三成軍は頭がばらばらだけど、家康軍は頭として家康がしっかり君臨しているでしょう。だいたい豊臣恩顧の大名ほど、秀吉の片腕として振る舞っていたあなたのことを恨んでいるわ。小早川だってそうよ。彼が国替え、減俸になったとき、召し上げられた領地にあなたが奉行として入ったでしょう。この国替えは三成の謀略だと、彼恨んでいたんだから。いずれにしろ男の嫉妬は大きいのよ。彼らはあなたが勝手に豊臣軍と名乗っているだけと思っているわ。」
三 成「そういわれてみればそうかも・・・・。」
ナナミ「あなたが名実ともにリーダーになったとき、立ち上がりなさいよ。」
三 成「わしはあくまでも豊臣家の家臣じゃ。」
ナナミ「ならば秀頼が決断したとき行動しなさい。」
三 成「我が主君を呼び捨てにするな。」
ナナミ「あなたはまず秀吉なきあとの家康の行動に頭にきた。それこそが家康の思うつぼ。家康にとって豊臣家はまだまだ巨大。まずは分断させ、個別撃破することが孫子流の定石。家康はどれほど信長を恐れていたか。母子をころされてもじっと時期が来るのを堪えてたのよ。秀吉に天下を取られたときだって、どれほど悔しかったか。彼が漢方薬の専門家になったのも“勝つ形になるまでじっと待つ”ためなのよ。」
三 成「兵は拙速を聞く、というじゃないか。家康が上杉討伐している間に天下を抑えるチャンスだ。」
ナナミ「馬鹿ねえ。それは家康の策略だとなぜ思わないの。まさに家康の行動は“善く敵を動かす者は これに形にすれば敵必らずこれに従い、これに予うれば敵必らずこれを取る。利を以てこれを動かし、詐を以てこれを待つ。”じゃないの。あなたは完全にコントロールされているわ。」
三 成「ならばわしはどうすればよい。」
ナナミ「今回は動かないで。じっとしていて。」
三 成「じっとしていたら、わしは殺される。前田利長殿は家康暗殺の嫌疑をかけられた。上杉景勝殿も新しい城を構築しただけで、謀反と決めつけられた。家康は言いがかりの天才じゃ。それこそこのまま家康のじゃまになる大名を、言いがかりを言って一人ずつ潰していく気だ。だから豊臣恩顧の大名が温存されている今しか、家康に対抗する勢力を結集して家康をつぶすしかないのだ。」
ナナミ「だからそれこそ家康の思うつぼなのよ。この戦いにあなたたちが負ければ、家康の天下取りは10年早まるわ。もしここでとどまれば、それこそ苦難の道が待っているかもしれないけど、時間があるわ。可能性があるかどうかはわからないけど勝つ形になるまで待つべきよ。」
三 成「そちはなにものじゃ。なぜわしを助けたい。」
ナナミ「私は未来から来たアンドロイド、ナナミ。残念ながら家康は、歴史の中でももっとも理想的な世の中を作ったのよ。あと14年後に豊臣家は滅びるけど、それから徳川時代の終焉の254年後まで大きな戦はなかったの。徳川政権は国民に武士、農民、職人、商人と4つの職業的階級を作り、寺子屋という教育機関を国の隅々までつくり、学問を奨励し、どの職業的階級も小さいころから寺子屋に通い、職業に誇りを持ち、活気のある平和な時代が長く続いたの。家康は確かにいやらしいわ。まず豊臣家の大番頭の顔をして、天下をねらい個別撃破で豊臣恩顧の大名を追い詰め、あなたとの戦いで、主な大名を制圧し、そのあと、味方した大名が死ぬのを待って豊臣家を滅ぼしたの。そのあとも外様といわれた大名を長い時間をかけて取り潰していったわ。それでもなぜあなたを助けたいか?こういうことはいつの時代にもあるわ。権力を掌握するために派閥を作り、策略を練って失脚させるわ。あなたがここで思いとどまれば、この戦で大勢の人が死ななくて済むし、なによりも派閥争いを平和的に解決する歴史的前例になるわ。」
三 成「なるほどな。まああの家康めがわしの理想とする国をつくるならば、もう思い残すことはない。しかしいくさは止められない。これは大きな欲望のぶつかり合いだ。言い出したわし一人の責任もある。幻のようなそなたの言葉を信じていかにしてこの大きな出来事をとめることができようか。あとは太閤殿下への義を貫いて死ぬまでよ。さらばじゃ。」
ナナミ「しかたがないわね。」
三 成「最後にもうひとつ聞いておきたい。なぜ254年後に家康の国は滅びたのじゃ。」
ナナミ「鎖国よ。」
三 成「鎖国?」
ナナミ「家康は積極外交をおこなったけど、孫の家光は外国嫌いで、しかもキリスト教徒の大きな暴動が起き、徳川政権は長崎以外の港から外国人を締め出してしまったの。その結果、西洋で発達した文明に日本はついていけなくなり、254年後には外国の武器に日本は太刀打ちできなくなっていたの。」
三 成「なぜじゃ?」
ナナミ「文明の進歩は戦争で進むものよ。徳川政権時代、西洋は小さい国家が乱立し、ひっきりなしに戦争していたの。その結果鉄砲の威力は進歩し、大筒も進化し大砲となり、舟はさながら無数の大砲の衣をまとった鉄の城になったのよ。」
三 成「なるほど、日本の国内だけ考えていてもだめなのだな。いや勉強になった。ありがとう。」





内 山「どうも、関ヶ原にナナミを送ったのは失敗だったな。」
ヨーコ「なんで送ったのよ。」
内 山「いやあ家光の鎖国をやめさせるために、三成を生かしておこうと思ったのだけどもね。」
タクミ「こんどは西洋に送り込んだら?」
内 山「それは面白いな。だれにする?」
ナナミ「ナポレオンなんていいんじゃない?」
内 山「確かにおもしろいな。ナポレオンがワーテルローで失脚しなければ、西洋の植民地政策はもう少し遅れるか、弱まっていたかもしれないな。おっと2010年にもどんどん送らなければいけない。」
 
ウイーン・・・・・・
 
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